2025/06/20 20:00
新学期が始まってすぐの4月。
和史は午後の多摩川を走っていた。
両耳にはワイヤレスイヤフォン。
Sun RaのWhere Pathways Meet。
あまり知られていないジャズを聴きながら、世田谷の街を抜けていく。
走るのは孤独になるためじゃなくて、孤独に境界線を引くためだった。
大学の仲間とは、深い話ができない。女の子と付き合ったこともある。
でも、いつも何かが噛み合わない。
言葉、いや体温かもしれない。
それとも、走るテンポか。
1時間後、環八まで来たところで立ち止まり、呼吸を整える。春の空気が喉の奥に甘く届く。
リピートで流していたSun Raの音が切れて、スマホの通知音が入った。
「今日来れる?新歓ライブのリハ、夜からだけど」
バンド仲間の千裕からだった。
彼女のベースが好きだ。
何より彼女の寡黙さが、彼の心に近かいと思えた。
「なんか食べてから行くよ。」
そう返して、和史は家に戻った。
冷蔵庫の中の野菜とスパイスを見ながら、脳内で曲のBPMを数えるように、料理を組み立てていった。
【スパイス野菜のホットラップ・サンド】
<材料>(1人分)
・全粒粉のトルティーヤ 2枚
・キャベツ 2枚(千切り)
・人参 1/4本(千切り)
・ひよこ豆(水煮) 大さじ2
・ランナーズスパイス 小さじ1
・ヨーグルト 大さじ1
・レモン汁 小さじ1
・塩 少々
・オリーブオイル 小さじ1
<作り方>
1. フライパンにオリーブオイルを熱し、人参とキャベツを炒める。
2. ランナーズスパイスと塩を加えて香りを立てる。
3. ひよこ豆を加え、軽くつぶしながら混ぜる。
4. 火を止め、ヨーグルトとレモン汁を加えて和える。
5. トルティーヤに具材を包み、ラップサンド状に巻く。ホットサンドメーカーで軽く焼いてもいい。
食べ終えてギターケースを背負い、スタジオに向かう。
電車の中で、和史はふと思う。
自分の中のこれから。
それは昨日より確実に走れる脚かもしれないし、夕暮れのコード進行かもしれない。
今夜のリハはうまくいく気がした。
もし彼女が少し笑ったなら。
きっとそれがスタートラインだ。

走ることも、笑うことも、どちらも“整える”こと。
心とカラダ、ひとふりで整う。
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