2025/07/04 20:00
水曜日の朝、目がさめたとき、ぼくは昨日より少しだけすぐに立てた。
階段を降りると、母がテレビを観ながら、紅茶を飲んでいた。
「おはよう」
「おはよう」とぼくも言った。
なんでもない挨拶だけど、昨日より声がうまく出た気がした。
ぼくはパンにバターを塗って食べ、くつひもを結んだ。
走り出してしばらくすると、川のそばのベンチの下に、犬がいた。
黒と白のぶち。くるくるした毛。首輪はしていない。
犬はぼくを見ると立ち上がり、しっぽをふった。それから、ぼくのあとをついてきた。
僕が走ると、犬も走った。
僕が止まると、犬も止まった。
だれかが散歩させているわけじゃないようだった。迷子かもしれないと思ったけど、そんなふうに見えなかった。
まるで前から知っていたかのように、横にいて、リズムを合わせてくれた。
それがなんだかうれしくて、ぼくは昨日より長く走った。
川沿いの道を抜けて、公園まで行った。
帰るときには、犬はいなかった。
さようならも言わず、消えていた。
「かわったな犬がついてきたんだ」とぼくは母に言った。
「どんな犬?」
「毛がくるくるしてた。走るのがうまい犬だった」
「それ、パパが言ってた。夢に出てきた犬かもね」
母はそう言って、台所で野菜を刻んだ。
昼ごはんは、焼きたての枝豆とおからの塩おやきだった。
もちっとして、ふんわりしていて、ランナーズスパイスが鼻から抜けた。
走ったあとにちょうどいい優しさだった。
「走るとおなかがすくでしょ」と母が笑った。
「うん」とぼくも笑った。
【枝豆とおからの塩おやき(ランナーズスパイス入り)】
<材料>(6個分)
・おから(生) 100g
・絹ごし豆腐 100g
・薄力粉 大さじ3
・茹でた枝豆(鞘から出して) 50g
・塩 少々
・ランナーズスパイス 小さじ1
・ごま油 少量
<作り方>
1. ボウルにおから、豆腐、薄力粉、ランナーズスパイスを入れてよく混ぜる。
2. 枝豆と塩を加えて混ぜ、6等分にして丸め、平らにする。
3. フライパンにごま油を熱し、両面をこんがり焼く。
4. 中まで火が通ったら完成。
夕方、ノートの端に犬の絵を描いた。うまく描けなかったけど、どんな顔だったかはちゃんと覚えていた。
風のにおいといっしょに。
次の日も走った。
けれど、犬にはもう会えなかった。
でも、また会える気がしていた。
それだけで、十分だった。

誰かを想う気持ちにも、やさしい香りを。
頑張りすぎない日の“おいしい整え方”。
▶ 次の話 【優しさと、走る|第3話 木曜日の手紙】