2025/07/11 20:00

金曜日の朝、夢を見た。

父が、少し若い顔で立っていて、ぼくを呼んでいた。

だけど目を覚ますと、部屋のなかはしんとしていて、風の音だけが残っていた。

 

午前十時。

今日も走ろうと思った。

だけど足がむずむずして、なぜか身体うまく動かない。

 

そういえば、昨日読んだ父の日記に、「金曜日は苦手だ」と書いてあった。

理由はわからない。ただ、そう書いてあった。

 

じゃあ、ぼくも苦手でいいんじゃないか、と思った。

 

川沿いの道に出ると、風が昨日よりあたたかかった。

今日は歩いてみた。

途中でふと立ち止まる。

あの犬がいた。

遠くに、ふわっと立っていた。

こっちを見ている。

近づこうとしたけど、すっと消えてしまった。

 

家に帰ると、母が冷蔵庫の前に立っていた。

 

「お昼、またおやきでいい?パパのおやき」と言って、豆腐と小松菜を手にした。

 

「うん」

 

レシピは、父が書きのこしたノートのはしっこに、メモみたいに書かれていた。

やわらかくて、でも香ばしくて、ランナーズスパイスの香りがふっと鼻にぬけるやつ。

 

母が一口食べて言った。

「なんだか、お父さんの走り方みたいな味」

「どういう意味?」

「うーん、元気がでるってこと、かな」

 

 

【豆腐と小松菜のランナーズスパイスおやき】

 

<材料>(6個分)

・木綿豆腐 150g(しっかり水切り)

・小松菜 1束(みじん切り)

・小麦粉 大さじ3

・片栗粉 大さじ1

・醤油 小さじ1

・ごま油 少々

・ランナーズスパイス 小さじ1

・塩 少々

 

<作り方>

1. 小松菜はよく洗い、さっと湯がいて細かく刻む。

2. ボウルに水切りした豆腐、小松菜、小麦粉、片栗粉、醤油、ランナーズスパイス、塩を入れてよく混ぜる。

3. 手で丸めて平らにし、フライパンにごま油を熱して、両面をこんがり焼く。

4. 好みでポン酢や味噌だれで。

 

 

午後、ぼくは夢のことをまた思い出した。

まぼろしかもしれないけど、父が笑っていた気がした。

 

明日は、ちゃんと走ってみようと思った。

父に、追いつける気がしたから。

誰かを想う気持ちにも、やさしい香りを。
今日もあなたに、やさしい香りを。

▶ 次の話 【優しさと、走る|第5話 土曜日のスタートライン】