2025/07/21 07:00

雨の日は、時間がゆっくり流れる。

けれど、今日はその流れ方がどこかちがっていた。

 

午後二時すぎ、玄関のドアが静かに開く音。学校から息子が帰ってきた。

私はキッチンのタオルを持ったまま、首だけをのぞかせた。

 

「お腹、すいた」

息子は、靴を脱ぎながら言った。

 

その言葉に、私は少しうれしくなった。

うれしくなったことを、顔に出さないようにして、

「そう」とだけ返す。

 

「ホットサンド、食べたい」

 

彼は自分もキッチンに立ちたいと言った。たぶん初めて。

 

「お父さんのあれ、トマトと……なんだっけ」

「ズッキーニじゃなかった?」

 

そう言うと、彼はうなずいて、冷蔵庫をのぞきこんだ。

大きめのズッキーニが1本、そこにあった。

 

「切るよ」

「お願い」

 

その横顔を見ながら、私はパンにチーズをのせた。ランナーズスパイスを少しだけ振りかける。

夫がそうしていたのを、何度も見ていたから。

 

フライパンの上で、パンが焼ける音。

トマトが、じゅう、と音を立てて、

ズッキーニがすこし透明になる。

 

「いい音だね」

「うん。お父さん、いつも言ってた。

音で食べたくなるって」

 

彼はちいさく笑った。

その笑い方が、夫に似ていて、

私はすこしだけ、視線をそらした。

 

焼きたてのホットサンドを半分に切って、中からとろりとチーズが流れるのを見ながら、彼は黙ってそれを口に運んだ。

 

「……おいしい」

 

その言葉に、私はふたつめを焼き始めた。

 

 

【ズッキーニとトマトのスパイシーホットサンド】

 

<材料>(2人分)

・食パン(6枚切り) 4枚

・ズッキーニ 1/2本(薄切り)

・トマト 1個(輪切り)

・スライスチーズ 2枚

・ランナーズスパイス 小さじ1/2

・オリーブオイル 適量

・バター 適量

 

<作り方>

1. ズッキーニとトマトをオリーブオイルで軽く炒める。

2. 食パンにチーズ、炒めた野菜をのせ、ランナーズスパイスをふりかけてサンドする。

3. フライパンにバターを熱し、サンドイッチを両面こんがりと焼く。

 

 

外はまだ雨が降っていたけれど、

部屋のなかにはあたたかい音が残っていた。

 

私はそれを聞きながら、

こんな午後が増えていくといいな、と思った。

誰かを想って作るごはんにも、やさしい香りを。

“おかえり”のかわりに、香りをひとふり。


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