2025/07/28 07:00

久しぶりに、予定のない土曜日だった。

朝から晴れて風も穏やかだったので、家じゅうの窓を開け放った。

ベランダの洗濯物が、からからと軽い音を立てて揺れる。

リビングには、湯気のたつマグカップと、焼きたてのパン。

息子はまだ、自分の部屋で眠っていた。

 

ふだんなら「早く起きて」と声をかけるのだけど、今日はもうすこし寝かせておいてもいい気がした。

 

私はソファに座って、文庫本をひらく。けれど活字がうまく頭に入ってこなくて、そのうち、目を閉じてしまった。

 

息子の足音に気づいたのは、陽の角度が少しだけ変わったころだった。

 

「おはよう」

「おそよう」

 

そう言いながら彼は、わたしの隣に腰かけた。

なんだか、猫みたいだ。

あたたかくて、するりとそこにいて、

けれど自由で、自分の呼吸をしている。

 

「ひさしぶりに、一緒に走る?」

そう私が聞いたとき、

彼は一瞬、目をまるくしてから、うなずいた。

 

「ゆっくりでいいなら」

「もちろん」

 

短いコースだったけれど、

ふたりで走るのはほんとに、久しぶりだった。

あの頃、夫と3人で走ったときのことが走りながらふと浮かんできたけれど、その記憶に引きずられることはなかった。

 

それよりも、今、隣で息子が息を切らして笑っていることのほうが、なにより大切に思えた。

 

帰宅して、シャワーを浴び、

「お腹がすいた」と彼が言ったとき、

私はすこし迷ってから、あれを作ることにした。

 

米粉のガレット。

夫が、走ったあとによく作ってくれたもの。

冷蔵庫にあったパプリカとツナ、そして卵をのせる。生地にはランナーズスパイスを混ぜこんで。

 

 

【米粉のガレット・パプリカ&ツナのスパイス仕立て】

 

<材料>(2枚分)

・米粉…50g

・卵 2個(1個はトッピング用)

・牛乳 100ml

・ランナーズスパイス 小さじ1/2

・塩 少々

・パプリカ(赤・黄) 各1/4個(細切り)

・ツナ缶(水煮または油漬け) 1缶

・オリーブオイル 適量

 

<作り方>

1. 米粉、卵1個、牛乳、ランナーズスパイス、塩を混ぜて生地を作る。

2. フライパンにオリーブオイルを熱し、生地を薄く流す。

3. 表面が乾いてきたら、パプリカ、ツナ、卵を中央にのせ、蓋をして蒸し焼きにする。

4. 卵が半熟に固まったら完成

焼き上がる香ばしい匂いに、彼が台所に顔を出した。

 

 

「これ、好きなやつだ」

 

ガレットの端をカリッとかじって、

彼は嬉しそうにうなずいた。

 

私もひと口、なんだか陽だまりのような味がした。

誰かを想って作るごはんにも、やさしい香りを。

頑張る誰かの背中に、そっと香りを。

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