2025/08/22 20:00

日曜日の朝、ベランダに出ると走っている人がいる。
それも一人や二人ではない。ぞろぞろと、にょろにょろと、ひょろひょろと走っている。

なぜ走るのか。
日曜の朝に。
ふつう日曜の朝といえば、納豆と味噌汁の香り、朝刊とこたつ、テレビでは「題名のない音楽会」だ。
その穏やかな文化を差し置いて、走っている。

あれか…最近の人は汗をかくことが正義だと思っているのか。
サウナとランニングとヨガ。
これは今の健康三種の神器である。
冷静に考えてみれば、すべて暑い。
暑いのに流行っている。
なにか間違っている。

そのうちの一人が、マンションの階段でばったり会ったご近所の奥さんだった。
顔が赤い。
息が荒い。
そして爽やかな笑顔で言う。

「帰ったらスパイススープ作るんです〜。ランナーズスパイスで。走ったあとに最高なんですよ!」

スパイススープ?
スープは「飲む具」だと思っている私にとって、その言葉は未知との遭遇である。
スープにスパイス? 
カレーじゃないの? 
ポタージュでもないの? 
と訊きたくなる。
が、訊かない。
訊いたら最後、話が長くなる。

その夜、こっそりネットで調べた。
「ランナーズスパイス」
どうやら、走る人の回復食として近年注目されているスパイスブレンドらしい。

走らない私が作ってよいのだろうか…と一瞬迷ったが、買ってしまった。
ネットで。
買ってしまえば、こっちのものである。
さっそく作ってみた。


【ランナーズスパイスの豆乳スープ】

<材料>(2人分)  
・ランナーズスパイス 小さじ1
・無調整豆乳 300ml
・玉ねぎ 1/2個(薄切り)
・しめじ 1/2パック
・オリーブオイル 小さじ1
・塩 少々
・白味噌 小さじ2
・黒胡椒 お好みで

<作り方>
1. 鍋にオリーブオイルを熱し、玉ねぎをしんなりするまで炒める。
2. しめじを加えてさらに炒める。
3. 豆乳を注ぎ、沸騰しないように中火で温める。
4. ランナーズスパイスと白味噌を溶かし入れ、塩で味をととのえる。
5. 器に注ぎ、好みで黒胡椒をふる。


これは…うまい。
走った人用のレシピだが、走ってない人にも効く気がする。
まるで、なにもしていないのに自分がちょっとえらいことをしたような気になれる。
なにより、からだがホカホカする。
そして、ちょっとだけ「走ってみようかな」などと錯覚する。
これは危ない。

実際、翌朝。走ろうかと思った。
思っただけでやめた。
走る気になっただけで、すでにこのスープの仕事は終わっている。
すごいぞ、ランナーズスパイス。

「走らない人を、走った気にさせる魔法のスパイス」と名付けたい。
長いか。

ベランダで缶コーヒーを飲みながら、また走っていく人々を見つめる。
いいなあ、とは思う。
思うが、やはり今日も走らない。

ランニングブームよ、どこへでも行きたまえ。
私はこのスープと共に、静かに走らない時間を楽しむとしよう。
走らなくても、香りで整う日曜日。
日曜の朝は、香りでスタート。