2025/09/22 07:00
森一弘はリビングの窓を半開きにして、冷えた空気を少しだけ部屋に入れた。
『ラスト・リミッツ 栄光なきアスリート』を観終えたところだ。
スティーブ・プリフォンテーン、アメリカの伝説的な長距離ランナー。
その燃えるような情熱と、若くして失われた人生の切なさが胸にずっしりと重くのしかかる。
「自分はまだ、燃え尽きていないか?」
一弘は呟く。
52歳という年齢の中で、何度も自問してきた問いだ。
スポーツと料理、そして静かな孤独の中で自分を保っているつもりだった。
しかしこの映画は、内側の何かを揺さぶった。
その夜、台所に立つと自然と手が動いた。
少し時間をかけて煮込む料理が作りたい。焦らず、じっくりと味を染み込ませる。
そんな料理が、今の自分に必要だと思えた。
【根菜と鶏肉のランスパトマト煮込み】
<材料>(2人分)
・鶏もも肉 300g(一口大に切る)
・にんじん 1本(乱切り)
・じゃがいも 2個(皮をむき、一口大に切る)
・玉ねぎ 1個(くし切り)
・セロリ 1本(斜め切り)
・にんにく 1片(みじん切り)
・カットトマト缶 1缶(400g)
・オリーブオイル 大さじ2
・赤ワイン 100ml
・水 100ml
・ローリエ 1枚
・ランナーズスパイス(ORIGINAL) 小さじ1
・塩、黒胡椒 適量
・パセリ(みじん切り) 適量
<作り方>
1. 鍋にオリーブオイルを熱し、にんにくを香りが立つまで炒める。
2. 鶏肉を加えて表面に焼き色をつける。
3. 玉ねぎ、にんじん、セロリを加え、軽く炒める。
4. 赤ワインを注ぎ、アルコールを飛ばす。
5. トマト缶と水、ローリエ、ランナーズスパイスを加え、沸騰したら弱火にして蓋をし、約40分煮込む。
6. じゃがいもを加え、さらに15分煮込む。
7. 塩、胡椒で味を調え、仕上げにパセリを散らす。
鍋の蓋を開けると、トマトとスパイス、野菜の甘い香りが鼻をくすぐった。
鶏肉は柔らかく煮え、根菜はほっくりとしている。
一口食べると、深みのある味わいが広がった。
料理をしながら感じたのは、まるで自分自身をじっくりと煮詰めているような感覚だった。
映画の中のプリフォンテーンの走りは、ただの競技のそれではない。
己の全てを燃やし尽くす魂の奔走だ。
一弘もまた、日々の生活の中で小さな炎を絶やさずに生きていきたいと願った。
食後、ランニングシューズを履き外へ出る。
空は曇っていて、少し肌寒い。
だが、その冷たさが心地よかった。
「燃え尽きるまで、走り続けよう」
一弘は自分に誓った。
そしてゆっくりと走り出した。
遠くの街灯が、淡く揺れている。
*** おわり ***
1本の映画のように、1皿の香りを。
香りの余韻で幕を閉じよう。