2025/09/26 20:00
~まくらのまくら~
ああ、どうもどうも、ご来場いただきましてありがとうございます。
さて今日は、「まくら」についてちょいとお話をさせていただきます。
「まくら」と聞くと、寝るときのあの枕かいなと思われるかもしれませんが、違うんですな。
落語の「まくら」とは、本題に入る前の、ちょっとしたお話のことを申します。
いきなり演目に入りますと、なかなかお客さまの心もつかめません。
ですから、世間のことや最近の出来事、時には自分のことなど、軽い話題で場を和ませる。
それが「まくら」でございます。
「まくら」はですね、落語の世界では大切な-間-のひとつでございまして、これがうまくいきますと、お客さんがすっと噺に入ってくれる。
つまり、橋渡しの役割を果たしているわけですな。
まあ、言うなれば、寒い冬の日に火鉢のそばでちょっと手を温めるようなもので。
そんな「まくら」を味わいながら、お楽しみいただければ幸いでございます。
さて、それでは本題へまいりましょうか。
第一席「走る理由と納豆の話」
【スパイス納豆そうめん】
<材料>
・そうめん 1束
・納豆 1パック
・卵黄 1個
・オクラ(細かく刻む) 2本
・めんつゆ(ストレート) 大さじ3
・ランナーズスパイス(ORIGINAL) 小さじ1
・ごま油 少々
<作り方>
1. そうめんを茹でて冷水で締める。
2. 納豆に付属のタレ・からしとランナーズスパイスを入れて混ぜる。
3. 器にそうめんを盛り、納豆、卵黄、オクラをのせる。
4. めんつゆとごま油をかけて完成。
えー、走るってのは不思議なもんでしてね。
始める前は「健康のため」だの「ダイエット」だの、それっぽいこと言うんですけど、だいたい三日で膝が痛くなったり靴が合わないって言い出して、気がつくと高かったシューズが玄関の隅っこで埃かぶって寝てる、なんてことになりがちでね。
私もそうだったんですけど。
ある時ふと思い立って、朝早くにちょいと走り始めたんです。
寄席の時間までは余裕があるし、弟子なんか、まだ寝てる時間ですからね。
で、走ってるとね、脳みそが勝手に動き出して、妄想なんかを始めるんですな。
最初は「昨日の高座はどうだったか」とか真面目なこと考えてるんですけど。
だんだんね、「もし今、富くじが当たったらどうするか」なんて、わけのわからない方向へ行くんですな。
「まず弟子に焼肉でも奢ってやるか…いや、あいつらは寿司の方が喜ぶか…とか。座布団も新調したいし、師匠にはやっぱり一番に報告して……いや、師匠には内緒にしたほうがいいな」なんて。
何も当たってないのにね。
これがですね、息が切れてくると拍車がかかるんですよ。景色が滲んでくると、もう自分が本当に大金持ちになったような気になってくる。
体は汗だく、頭は夢だらけ。
で、ふらふら帰ってきて、台所でさっと作るのがこの“スパイス納豆そうめん”。 冷たいそうめんに、ネバネバした納豆とオクラをのせて、卵黄をぽとんと。で、ランナーズスパイスをひとふり、これがまたいい塩梅で。
なんだか「やり遂げた感」が出るんですな。
縁側でこれを食べてましたら、お向かいの奥さんが顔出して、「あら、それ、何料理?」って聞くんで、「走った男の妄想メシです」と答えたら、「……お大事に」と言って戻っていった。
まあ、夢を見てる時間ってのは、案外幸せなのかもしれません。
さて今日は、そんな「富を得た気になった男」が、思いがけず本物の騒動に巻き込まれていくという…
そんな一席、お付き合い願います。
『宿屋の富』あらすじ
江戸の馬喰町のさびれた宿に、一人の男が泊まったんですわ。これがまあ、調子のいいやつで、自分は田舎の大金持ちで奉公人が何百人もいるって話しましてね。庭からは琵琶湖と富士山が見えるなんて、まあとんでもない話ですよ。
宿の主人も人がいいもんで、ついその気になって、売れ残った富くじを買わせちゃうんです。男も「当たったら半分やる」なんて言って、出かけて行きました。
ところが実はこの男、江戸に金の算段で来たけど文無しで、一分の富くじを買わされて悪態ついてる。で、神社でくじ引きを見てたら、なななんと一等千両が当たっちゃうんですよ。
びっくりして震えが止まらなくなって、慌てて宿に戻ると、体調悪いって寝込んじゃう。
宿の主人が知って、部屋に行って「千両当たりましたよ、宴の用意してます」って言うと、男は布団を被って震えてる。んで、主人が布団をめくると、あらまあ、男は草履も履いたまま。
なんとも人間らしいって噺ですよ。

オチのあとに、香りの一席。
笑って、走って、香りで締める。
▶
次の話 【走る、まくら|第2話 走り疲れと鰻の話】