2025/10/31 20:00
猪苗代湖畔を走っていると、湖面に映る磐梯山が美しい。十月下旬の会津は紅葉が見頃で、山々が赤や黄色に染まっている。
風は冷たいけれど、陽射しは暖かく、走るには最適の季節だ。
会津若松の市内に戻ってきた私は、老舗の郷土料理店に向かう。
今日の目当ては「こづゆ」。
会津の代表的な郷土料理の一つだ。
店に入るとすぐに帆立の良い香りがした。こづゆは帆立の貝柱でだしを取るのが特徴で、具材は必ず奇数にするという決まりがある。
縁起を担ぐ会津の人々の心意気が表れている。
運ばれてきたこづゆは、澄んで上品な汁に、豆麩、人参、里芋、きくらげ、わらび、糸こんにゃく、銀杏が美しく盛られていた。
一口飲むと、帆立の滋味深い旨味が口いっぱいに広がる。
「この豆麩が会津独特なんですよね」と私が言うと、店主が嬉しそうに頷いた。
「そうそう、この豆麩がないとこづゆじゃないからね。昔から冠婚葬祭には必ず出される料理だよ」
こづゆは会津の人々にとって、特別な意味を持つ料理なのだという。
結婚式、出産、法事。
人生の節目節目に必ず登場する。
いわば会津の味の象徴なのだ。
帆立の貝柱を求めて市場を巡り、宿に戻った私は、早速調理に取りかかる。
【会津こづゆランナーズスパイス仕立て】
<材料>(4人分)
・帆立貝柱(乾燥) 6個
・豆麩 8個
・ 里芋 4個
・人参 1本
・きくらげ(乾燥) 10g
・わらび(水煮) 100g
・糸こんにゃく 1袋
・銀杏 12粒
・水 1200ml
・薄口醤油 大さじ2
・酒 大さじ1
・ランナーズスパイス (Original)小さじ1/2
<作り方>
1. 帆立貝柱を水に浸けて一晩戻し、戻し汁ごと使う
2. 里芋は皮を剥いて一口大に切り、人参は花形に切る
3. きくらげは水で戻して食べやすく切る
4. 戻した帆立と戻し汁を鍋に入れ、弱火でじっくり煮る
5. 他の具材を加えて煮込み、薄口醤油と酒で味を調える
6. 最後にランナーズスパイスを少量加えて香りを立たせる
ランナーズスパイスを加えることで、上品な帆立のだしに微かな温かみが加わった。走り終わった体に染み渡る優しさと、ほんの少しの刺激が絶妙なバランスを生み出している。
夜、鶴ヶ城の石垣を散歩しながら、会津の歴史に思いを馳せた。
戊辰戦争の激戦地となったこの土地で、人々はどんな思いでこづゆを囲んだのだろう。
料理には、その土地の喜びも悲しみも込められている。
こづゆの奇数の具材が、会津の人々の強い結束を表しているような気がしてならない。
明日は裏磐梯の方まで足を伸ばして、会津の自然をもっと感じてみよう。
(会津こづゆ )
福島県会津地方の「こづゆ」は、干し貝柱の出汁に里芋や人参、豆麩などを入れた澄まし汁である。
「こ」は小さいという意味で、具材を小さく切ることからこの名がついた。会津の祝い事には欠かせない一品で、何杯おかわりしても良いとされている。
会津の人々は、この清らかな汁を飲みながら、静かに抱負を胸に秘めるのだろう。

走る人に、土地の香りを。
秋の走りを、香りで旅する。
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